エピジェネティクスに関する一般向け書籍.ゲノミクスの次の潮流として期待されているエピジェネティクスに関して,豊富な具体例を用いて非常にわかりやすく書かれている.まず冒頭で母親の栄養不足が子供の肥満に影響しているということが述べられ,そこから遺伝子に依らない遺伝的影響であるエピジェネティクスの話に発展する.その後は,ヒトの遺伝疾患やモルモットの毛色の違いといった表現型などの具体例から,エピジェネティックな要因が遺伝子のどの部分にどのような形で影響してくるのかが述べられ,話はゲノムインプリンティングや幹細胞などのホットな話題にまで広がる.どれもトップダウンな解説ですんなり理解できるように組まれており,個々の話題には深入りしないものの,それぞれの話題のつながりは明確できちんと順序立てて説明されている. 個人的にはエピジェネティクス自身の歴史に関して「前成説」と「後成説」の対立を絡めて纏められていた部分で,以下の文章が非常に印象に残った.

細胞を構成する他の要素と同じく,遺伝子もハードウェアの一つであり,指示を出しつつ指示を受け,監督しながら監督され,原因であると同時に結果でもあるのだ. (P.160)

遺伝子は意志をもって細胞を支配しているわけではなく,あくまで細胞の一部として機能するものだ,という著者の主張が表れていて非常に良かった.

ちなみに,ハードカバーで250ページくらいあるがそのうち50ページくらいは訳注と参考文献なので,見た目ほど分量は無く気軽に読める.