はてな界隈ではみなさんご存知NATROM先生の著作.題名の通り「ニセ医学」と呼ばれる根拠のない病気の治療であったり健康になるための謳い文句について,個々の豊富な事例からその真偽を現代医学をもとに検証し明らかにしていくという本書.おそらくNATROM先生がこれまでに書きためてきたblog記事が元になっているとは思うが,恐らくほぼすべての文章を書き下ろしているであろう本書は,より一般読者向けの内容になっており1冊の書籍として非常に読みやすい.

当然ながら本書は一貫して科学的なスタンスで進んでいく.ただ頭ごなしに否定するのではなく,きちんと相手の意見を踏まえた上での反証や矛盾を突いた意見を述べることで,一つ一つ検証していく.例えば本書の最初に出てくる「日本人は薬中毒か」という問いには国際的に集計された医療統計を出して反証し,その背景にある日本の過去の医療事情を引き合いに出す.

それに加えて,良くある論調として「医者や政府は利益のための重大なことを隠している!」ということがあるが,それについても医者と保険者と患者の関係性についてきちんと解説している点が評価できる.というよりこの辺りは実際に中の人に解説してもらわないと見えてこない部分もあるので,概要ながらも内情について知ることができたのは良かった.当たり前といえばそうなんだけれども,日本であれば国民皆保険制度を元にした医療行為への支払いを考えれば明らかなんだと感じる.

本書を読めば誰でもニセ医学を暴けるかというと,必ずしもそうはならない.「健康」という分野は広大でかつ未だに未知の領域だ.医学的な知識のみならず,栄養学といった他分野であったり統計の素養が必要になる.そういうときに,目に入る情報すべてについて元論文を当たったり検証することは不可能だ.結局は「人の甘い言葉に乗るな」ということになるのだけれども,人間というものは親族が病気にかかったり心的余裕が無いときには,つい藁をもつかむ思いで騙されてしまうものだ.それは本書著者も指摘しておりかつそれを悪いとは言っていない.そこに漬け込むニセ医者や悪徳業者が悪いのであって,それについてきちんと追求していくことは医療従事者や政府の社会的責任といえる.そういう意味で,出版社を背後に堂々と批判しづらい現状において,本書は非常に価値ある出版だと思う.それと同時に,日頃から自衛できるような知識を身につけること,そこまでいかなくても注意を払うことの大事さを思い直す1冊だった.