本書はタイトルでハッキリとわかるように「数学で犯罪を解決する話!」の一言で表されて身も蓋もないのだが,中で紹介されているトピックは非常に豊富で多岐にわたる.統計の基礎から始まり,ニューラルネットや画像処理,データマイニング,ベイズ統計や暗号など,数学といっても理論をこねる退屈な感じではなく,犯罪捜査でいかに数学が実用的に使われてるかが分かりやすく書かれている.犯罪捜査の花形といえば敏腕刑事や名探偵などを思い浮かべるが,本書では登場するのは地味な数式や確率などの数学理論だ.町中で犯人を追いかけたり名推理で犯人を追い詰めたりといったことはなく,数学で手がかりや問題の兆候など解決の糸口を提示するだけだ.だが,複雑な現象から技巧的な数学テクニックを使ってパターンを見つけ出したり犯人像をあぶり出す様は,刑事モノや推理小説に引けをとらない爽快感や喜びがある.

この本は元々海外ドラマ「NUMB3RS」(ナンバーズ)の解説として書かれているが,ドラマを見ていなくても読めるような作りになっている.ドラマの解説として紹介されている事例はどれも面白いものばかりだったが,個人的に思うに,この本で見所となるのは「訳者あとがき」だろう.訳者の山形浩生がFurther Readingの趣旨の文章を25ページほど書いており,原著者の経歴や各トピックに関して深く理解するための参考書などが紹介されていたり,本文で詳しく述べられなかった部分についての補足がされている.さすが山形浩生といったところで,それぞれの分野について私見を交えつつ特徴をうまく捉えた解説がされている.本に出てくるトピックについて多少知見があれば,ここを眺めるだけでもなかなか面白い.

早くドラマNUMB3RSの方も見なくては….