だいぶ前に読み終わっていたのだけれども,何を書けばいいのか全く思いつかなかったので後回しにしていた1冊.何を書いても浅い理解しか出来ていない気がして,どうしても纏めきれなかった.

ヒトの遺伝子に関する知見が蓄積されてきて,遺伝子と病気,遺伝子と人種,遺伝子と性格(知性)など,人間の個性や文化活動にまつわる様々な要因が明らかになりつつある.そういった現実を,豊富な具体例とともに網羅的に案内してくれるのが本書の大まかな趣旨となっている.個々の内容は専門性がある程度高いものの,バックグラウンドが無い人でも理解しやすいように安易な言葉で書かれており,現実に起こっている事例をもとに話が展開していくため,細かい病名や背景などを気にしなければ大筋は非常に理解しやすい.

本書の内容にはあまり触れられなかったので,ここからは個人的な感想(印象).

情報がどこまでも精細にかつ確実なものになったとしても,ある意味「予言」とも取れる情報を前にして僕達がすべきことは,ただ選ぶことだけだ.逆に言えば,どこまでいっても選ぶことを効率化できず,律速段階として残ってしまう.情報を見るか見ないか,信じるか信じないか,使うか使わないか,それらは自由という名のもとに各自に責任を委ねられている.情報には絶えず欲望と不確定要素が付きまとい,リスクとコストが複雑に絡み合った数式を最適化するために僕らがすべき選択は,個人では背負いきれないほどの重荷となるのか,それとも新しい決定プロセスによって置き換わるのか,今のところ全く予測ができない.伊藤計劃の「ハーモニー」のような,人間の健康がリソースとして異常なまでの待遇をうけ管理される世界が現実に訪れるやもしれない.

ただ,現実的に近い将来訪れるであろう目先の選択をするためにも,ぜひとも知っておくべき内容を本書は大いに含んでいる.全てを知り全てを考慮することはできないが,まずは選ぶことができることを知っておくことが重要だろう.

自ら選んで勝利を勝ち取った人の逸話の冒頭部を最後に引用しておこう.常にこのようにありたいと思いつつも,生半可な決断しかできず後になって他の選択肢は無かったのかと自省するばかりの自分の人生だけれども,この文章のくだりを読むと,まだ勝負は決まっていない,もう少しがんばろう,と思えてくる.

人生にリハーサルはない。

 

十分な準備が整うことは、実は少ない。 自ら選んだ問題についてなら、長い時間をかけて〈専門家〉の域に達することもできよう。 だが、問題と呼ぶべきものは、不意をうってやって来る。 向こうからやって来るほとんど問題に対して、誰もが〈素人〉として向かい合うしかない。

 

例えば、すべての人が病気になるが、ほとんどの人は医者ではない。

 

「検索するとはこういうことだ/インテルCEOと前立腺がんの1800日 読書猿Classic: between / beyond readers」 http://readingmonkey.blog45.fc2.com/blog-entry-485.html