対象は文学・思想・哲学・歴史に偏っているが,読書法としては簡潔で的確

本書は佐藤優が実践している読書法や勉強法,そして大量の情報をどうやって効率良く捌くかについて論じた本だ.本書前半では,佐藤氏のこれまでの人生における読書遍歴が語られるほか,本書全体を通して文章の端々に彼独自の試行錯誤の跡が見られる.

読書に対する彼の態度は非常に明確で,本や情報の取捨選択をはっきりすることが繰り返し述べられる.それは,どのような本を読むべきでどのような本を読まないべきか,どういう情報を重視してどういう情報を読み飛ばすかということだ.ある事柄に関して読書で知識を得ようと思った時に,まず基本となる本の選び方から,重要な箇所のマーキングや書き込み,そして要約などの情報の整理に至るまで,本の著者の意見や自分の欲しい情報を的確に抜き出す技術が具体的に語られる.このような考えの根本には,時間は有限であるという彼自身の強い考えがあり,多読・速読を勧める上での佐藤氏ならではの理由付けがある.本書の技法に倣って文章を抜き出せば,

「読書は有限であり希少財である」という大原則を忘れてはいけない.速読はあくまで熟読する本を精査するための手段にすぎず,熟読できる本の数が限られるからこそ必要となるものだ.速読が熟読よりも効果を上げることは絶対にない.

読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門 (p.88)

と,速読をただ単に早く本を読む技術と見なしているわけではないことがわかる.本書の帯には「月平均300冊,多い月は500冊以上」と多読を煽る謳い文句が並んでいるが,中をしっかりと読めばそれが安易な多読を推奨しているわけではないことが理解できるだろう.こういった点においては,読書ありきで自然と知識が身につくという陳腐な読書論と比較して,本書の主張や読書手法は非常に合理的であり,ある程度の訓練を必要としながらも実用的である.

佐藤氏の元外務省主任分析官という経歴や神学部出身という学歴から分かる通り,主に思想や歴史の分野に関わる話が多い.科学や理学系に関しては,数学の勉強法で「テクネー」と呼ばれる繰り返しによる理解の重要性に触れている等ある程度の言及はあるものの,少し物足りなさは感じる.しかし,だからといって彼の技法が理学系に通用しないというわけではなく,全体を通して読書法や勉強法は首尾一貫しており応用が効くようなものだ.また,漫画や小説の読み方もそれぞれ読み方があり,漫画のデフォルメされた主張を鵜呑みにし過ぎないことや小説から何を汲み取るべきかなど,学問以外の読書に関しても言及があるのが本書の良いところだ.読書技法の基本から応用まで幅広く網羅した,誰でも読める幅広い年齢層向けの本として,かなり良くまとまっていてクオリティが高い1冊だと思う.