ウェブデザイン・インフォグラフィクスを含めたデザイン全般に使えるリファレンス的な1冊

一般の社会人や学生が「デザイン」を意識するのは,プレゼンテーションのスライドを作成するときだろう.エンジニアや研究者などはそれに加えて,ポスターやウェブサイトの作成,そして最近よく言われるようになったUX/UIなどの要素が加わる.そういう人に私が問答無用でお薦めするのが「ノンデザイナーズ・デザインブック [フルカラー新装増補版]」なのだが,本書「デザインする技術 ~よりよいデザインのための基礎知識」もなかなかの良書だったので紹介してみる.

本書は,デザイナーの仕事としての企画・発案から制作に至るすべての工程におけるデザインの技法を包括的に取り扱った技術書である.それらデザイナーの技法を,5つの要素「考」「図」「文字」「面」「色」に分けて,各要素が含む細かく技法をそれぞれ体系的に解説している.例えば「考」では,アイデアの出し方から組み立て方,そして最終的なカタチに仕上げていく過程に必要な技法が説明される.個人的な創作活動では境界が曖昧になりがちなプロトタイプ・ラフ・カンプにおいて,それぞれの段階で何をすべきでどのような箇所に気をつけなければいけないかが述べられ,それぞれの役割が明確になる.その他にも多人数で知恵を出しあってモノを作っていく方法にも触れられており,ブレインストーミングにおいては相手の1次的な意見に自分の意見を重ねることが大切だといった実践的なテクニックも入っている.そういった形で,本書をひと通り読めばある程度デザイナーの仕事をなぞることができるレベルの内容が詰まっている.

そして本書の最大の特徴は,見開き1ページ単位で各技法が紹介されているところだ.何かデザインしようと思ったら,ペラペラ本をめくりながら自分がやりたいことを探して,そのページの内容をじっくり読むなり他の文献への足がかりにすれば良い.そういったリファレンスとしての使い方ができるというのは,無限の可能性があるデザインの分野において作りたい作品のアタリを付けるために非常に有効である.

しかし,じゃあそれだけで満足のいくデザインが作れるようになるかといえば,私は必ずしもそれだけでは足りないと考える.そこには,デザインという分野における技法がある程度体系化しながらも,「やってはいけないこと」という人間の感性に基づいた禁則があるからだ.デザインは最終的に人間が見て感じて判断するものだから,いくら技法やテクニックが優れていようとも,人間側が受け付けなければ意味がない.色に関して言えば,例えば同系色の背景と文字が重なって読みにくかったりだとか,原色が強すぎて印象が強烈になるだとかいったことは,初心者が陥りがちな部分だ.そういった「やってはいけないこと」という禁則が,デザインには少なからず存在する.そういった部分において,本書はデザインの成功例は豊富に載っているが,失敗例は非常に少ない.

その点,冒頭で私が薦めた「ノンデザイナーズ・デザインブック」は,「やってはいけないこと」に関する情報が充実している.デザインを体系的に学んでいくなかで,ある手法に関してひと通り説明されたあとには必ず,その手法を使った作品の失敗例と,それを改良した成功例が対になって出てくる.そのため,読者は反例を学びながら手法自体の理解を深めていくことができる.そして,自分がいざデザインするというときには,そういった反例と見比べながら自分のデザインを修正することができる.このような真似や反面教師という関係は,初学者にとってはとっつきやすい部分だと思う.

といったように,これ1冊ですべてを網羅できるといったわけではないものの,本書はデザインにおいて網羅的でまとまりのあるリファレンス的な1冊だといえる.プレゼンテーションなどを作る際には,手元に置いておきたい本だ.