デザイナーである佐藤可士和の仕事術を,「整理」というキーワードを軸にまとめあげた1冊.整理といっても,ただ単純に部屋や机の上の小綺麗に整理するということだけではない.そういった空間の整理方法を,情報や思考といった考え方にも当てはめることで,仕事における問題解決や効率化を目指すという形となっている.この話の流れからすると,部屋の整理術を無理矢理当てはめているんだろうと感じるかもしれないが,佐藤可士和の考える整理というものは,実は空間・情報・思考が互いに深く関係したものであることが読み進めるうちに判明してくる.机の整理をするには情報の整理が必要であり,情報の整理をするには思考の整理をする必要があるといったように,それぞれのレイヤーで何をすべきか,そしてどういった整理法がポイントになってくるかが,佐藤可士和の代表的な仕事を例に挙げながら詳しく語られる.

本書の内容は,デザイナーや整理という単語から連想するイメージとは全く違ったものになっている.それは自分の性格や審美眼のような右脳的な能力に頼るのではなく,突き詰めて合理的に考えて細かな部分にもきちっと論理的な解釈を加えるという左脳的な能力を重視している点にある.奇抜なアイデアや突拍子もない行動の裏にある,徹底的に言語化された理論武装があることを知ると,佐藤可士和のデザインがなぜ広告の消費者である私たちに驚きや深い印象を与えたり,デザイナーが意図したイメージをそのままに伝えることができるのかが分かるだろう.デザインの制作過程で語られる試行錯誤の跡であったり情報の整理方法は,最終的に出来上がったものと見比べながら解釈することができて,非常に興味深いものになっている.

最近では工業デザインやUI/UXが注目されるようになり,外側の形を製品の機能とは別に考えるのではなく設計に組み込んでしまうというデザイン思考という総合的な言葉も出てきているが,本書はまさにその流れを整理という言葉で言い換えているだけで,主張することはほとんど変わらない.実際の手法に関してはそれぞれのスタイルで異なっているが,デザインと機能を両立して製品なりロゴなりを作り上げるという点では同じアプローチだと言える.

少し前の本だと思って軽い気持ちで読み始めたが,中身を開けてみると意外としっかりして現在のデザイン思考と比べても遜色ない内容となっていて驚いた.整理本という括りがもったいないと思えるほど,プロダクトデザインの教科書としても良書だと思う.