前々から小説自体も断片的に読んでいたし,流れてくるネット評もちらほら流れてきて,特徴的な言い回しがネットスラングとしても着実に勢力を伸ばしていることも感じていた.今回はそれらの確認という意味でも,書籍化され複数の物語がひとつにまとめられた本書を読んだのだが,何と表現していいのか…ただ,とにかく色んな意味で凄い,そして面白い.これを単純なプロットで構成された似非日本語のSFと言うなかれ,これは文化の融合なのだ.

世の中には,日本というローカルな視点から抜けだせずに,やれ外国でもてはやされているのは間違った日本文化だとか,ちゃんとした日本文化を伝えないといけないだとかいった貧しい考えの人がある程度存在する.そういう人たちは自身の日本の見方に何の疑問も抱かずに外部を批判するわけだけれども,その自分たちの日本文化をそっくりそのまま異文化の人間に理解し受け入れてもらう難しさというのを,全くもって理解していない.異文化は自分たちとは違うからこそ異文化なのだ.インド料理屋にいけばインド人がインド料理食べてるし,トルコ料理屋にいけばトルコ人がトルコ料理食べているわけで,そういった異文化の認識から一歩踏み込んで,自分たちの文化の一つとしてカレーなりケバブなりの食文化であったり,宗教などを含む独自の文化が認識されるには,非常に繊細な文化のすり合わせが必要になる.外国人だって日本料理が食べたければ日本料理屋に行くだろう.じゃあそれで日本文化が認知されて,よく分からない生魚とライスを食べる文化として理解されたら,それで満足だろうか.本当に知ってもらいたいことはそんな事実の羅列ではないだろう.自分たちの様式を変えてまでも,相手の文化の懐に潜り込んで,日本文化の本質を相手に理解してもらいと思わないだろうか.そして相手に自分たちの文化のエッセンスを取り込んでもらい,より新しい文化というものを作って欲しくはないだろうか.

とまあ気が付けば変な講釈を垂れ流してしまったが,結論としてはニンジャスレイヤーは日本人が読んでもエンターテイメント性に優れていて面白いということで.というか,逆に日本人の英語への理解が必要な部分がある.あまり馴染みのない英語のカタカナ表記があって,lesserやgreaterみたいな何となく分かりそうなものから,shrineやcoffinみたいな意味を知らないと理解できない単語もちらほら見られるので,そのあたりはどっちかというと日本人の理解が試されている感がある.