この「ヒックとドラゴン」を観たあとの多幸感たるや,人に話さずにはいられなかったほどだ.ひとしきり知り合いに薦めまくった後,その興奮冷めやらぬままにiTunesでサウンドトラックを購入し,Amazonで「The Art of How to Train Your Dragon」をポチってしまった.

「ヒックとドラゴン」(原題:”How to Train Your Dragon”)は2010年に公開されたドリームワークス製作の3Dアニメーションだ.ストーリーや見どころなどの解説はWikipediaやAmazonを観ていただくとしてココでは割愛するが,個人的に感動した点を1つだけ書いておきたい.それはブルーレイの特典映像で語られているドラゴンのキャラデザインについてだ.主人公との友情を深めていく「トゥース(英語ではToothless)」と呼ばれるドラゴンは,他に登場するオリジナリティあふれるドラゴンとは違い,人間との交流で生ずる感情の機微を表現する必要があった.動きは哺乳類であるネコをモチーフにしていたり,肌は無機質な爬虫類の質感に加えて黒豹をイメージしたりしているのだが,表情を作る上で重要視したのがドラゴンの「耳」だという(正確には角という設定のようだが).トゥースの頭についている耳を自在に動かし,喜びや興味を示す時には耳を立て,威嚇や不快感を示す際には耳を倒すという動作を付けることで,より感情を表現することができたのだという.それが一番如実に表れているのは,トゥースが地面に描いた絵をヒックが足で踏んだりして遊ぶシーンだ.表情が交互に示されるこの場面では,目の開き具合の他に,耳をひょこひょこさせる姿が印象的で,感情の変化がハッキリとわかるようになっている.この後に二人が初めて心を開くシーンがあるのだが,その展開を予感させるような印象深いシーンであり,耳の表現が非常に効果的に表れている.

これと似た手法は,日本のアニメーションで言えば「アホ毛」だろうか.元々は画一的な髪型に変化を持たせるため付け加えられたであろうアホ毛に動きを付けることで,本人の感情の変化を表現することができたという意味で,非常に似通ったところがある気がした.最近では長いアホ毛で記号を描いたり文字を書いたりという直接的な表現もあるようだが,髪の毛のかすかな動きが感じさせる効果は侮れないものがある.髪と感情が連動しているなんて…と思う部分もあるけれども,アニメーションの作り込みに様々な制限があるなかで発明された表現なのだと考えると,なかなかに興味深い.こういった現実離れした表現方法が許される部分においても,アニメーションを見る楽しさがある.