書店でこの本を見かけたら,まず第23章「『ナード』ハンドブック」を読んでみてほしい.そこに書かれていることがまるで自分のことのように思えたら,きっと本書はあなたにピッタリだ.現状でのキャリアに満足しているにせよしていないにせよ,ギークとして仕事をもっと巧くやりぬくために大いに参考になるだろう.

本書はギークと総称される職人気質なソフトウェア開発者のための仕事術に焦点をあてている.著者はギーク出身の現マネージャーで,彼がギークとして活躍していた頃の,そして彼がマネージャーとしてその能力をマネジメントに活かした時の経験がふんだんに盛り込まれている.

本書は,4部構成全40章の短いエッセイで構成されており,転職の話から始まって転職の話で終わる.それはすなわち,長い人生の中のある時点でひとつの会社へのキャリアがはじまりある時点でそのキャリアが終わるという,会社を軸にしたキャリアの単位を表してる.そこには,転職を上手に進めるにはどうすればよいかということからスタートし,実際に会社に入った後の上司との付き合い方,プロジェクトの管理,仕事に必要なスキル,そしてその会社を離れるときに巻き起こる周囲への影響などが含まれる.本書ではそういったエンジニアが経験するであろうことについて,時には上手い対処の仕方,時には冷静で客観的な見方を教えてくれる.


私自身はまだソフトウェア開発者としてのキャリアの中にはいない人間なので,正直に言って書かれていることに現実味を感じないところもある.トピックごとの粒度などエッセイの構成が合わないと感じることもあったが,幾つかは非常に印象に残るものだった.こういう本の類は読み通すことにそれほどの重要性があるわけではないと思うので,ざっと読んでみて気に入ったエッセイを探したり,適当に気になるものだけを読んでみるのも良いと思う.ちなみに,自分が気に入ったエッセイは以下の通り.

  • 8章 企業文化
    • 少数のコアメンバーが企業全体の文化を支えているということについて.それがある時変化するということはどういうことを意味するのか.
  • 23章 「ナード」ハンドブック
    • パートナー向け,ギークやナードの取扱説明書.
  • 26章 「危機」と「創造」モデル
    • メンタルモデル,すなわち気の持ちようについて.
  • 30章 声を出す
    • 人前でプレゼンテーションをするときのテクニック.ところでプレゼンテーションとスピーチの違いって分かる?