マインクラフトは,今やもっとも人気のあるインディーズゲームと言っても過言ではないだろう.本書は,マインクラフトというゲームとその開発者である「ノッチ」ことMarkus Perssonについて,その成功の軌跡を追った作品となっている.個人が片手間で開発したゲームが突然爆発的な人気を博し,それにともなってゲーム会社の設立やコンシューマ機への移植,ゲーマーの多様化など,マインクラフトを取り巻くエコシステムがめまぐるしく変化する様を,リアルに感じることができる.それこそマインクラフトの成功はここ数年くらいの出来事であり,ノッチの開発者としての人生も十数年程度なので,まさに今起きている変革を追うのに最適な1冊だ.と同時に,インディーズゲームとしての成功例を,ある意味で生々しく見せつけられる.

私も数年来のマインクラフトファンだ.最初に触ったのがalphaのVersion 1.2くらいで,まだベッドが実装されてなかったことを覚えている.このゲームに夢中になるきっかけは,ぬどん氏の「史上最大の(中略)マインクラフト実況」の実況だったので,まさに本書に描かれるユーザコミュニティの拡大の影響をもろに受けた一人だ(英語圏では実況に代表される動画はマシニマと呼ばれる).そこからゲームや実況を今でも楽しんでいるので,マインクラフトの変化を見続けてきたユーザといえる.

そういう人にとっても楽しめる1冊であることは確かなのだが,今更「ノッチは子供の頃からレゴに触れていた」とか「今やコンシューマ機に移植されたり教育にも進出しているんですよ」言われても,まあそうだろうなくらいの感覚なので,むしろノッチの家庭環境であったりマインクラフトが生まれた土壌のようなものが個人的には興味深かった.その中でも,「スウェーデン」という国とマインクラフトのつながりは,本書を読んでいて重要なポイントだと感じた.

マインクラフトはスウェーデンで生まれた.まずこの事実について,マインクラフトのゲーマーでも知らない人は多いと思う.そして,スウェーデンという国は,実は私たちがよく知るゲームと深い関係にある.マインクラフトとの対比でたびたび登場する「バトルフィールド」シリーズは,スウェーデンの首都ストックホルムに本社のあるDICEが,エレクトロニックアーツの子会社として開発しているゲームである.その他にも幾つものゲームメーカーがスウェーデンに開発拠点を置いている.なぜ北欧の中でもスウェーデンなのかという問いについて,本書では人口当たりのIT発達率が高いことや,英語教育が充実していること,そして英語圏のポップカルチャーを受け入れてきたということが挙げられている.そのような環境の中でノッチはゲーム開発に憧れる一人のギーク(もしくはナード)として育ち,子供時代にはレゴを,成長するにつれPCゲームへとその興味を移していった.その中で転職であったり同じ趣味を持つ仲間との出会いなどがあり,ソフトウェア開発会社で働きつつも時間を見つけて製作したのがマインクラフトだった.

やはり「なぜマインクラフトのようなヒット作が生まれたのか」という原因を考える上で,いかにネットが発達して情報の共有やコミュニティが発達したとしても,ある国にあるタイミングである技術者が存在していたという事実は重要な気がする.そこに意味を見出してもコントロール出来無い以上は仕方がないが,「文化」と呼べるものがあることがひとつの強みなのだと感じる.