本書は「サービスできないドイツ人、主張できない日本人」を文庫化したものだ.ドイツ人の夫を持ち,ドイツで30年近く住んでいる日本生まれの著者のエッセイだが,旧題にあるようなサービスと主張というトピックはほんの一部で,他にも幅広い文化比較がなされている.異なる国の文化に挟まれて初めて互いの文化の良いところや悪いところが見えてくるように,読者からすると,知らないドイツを知るとともに自分たちの文化を振り返ることになる.

個人的には,ドイツの教育システムが一番気になった.以前読んだ「外国語で発想するための日本語レッスン」ではヨーロッパの教育の良い部分についてフォーカスしていただけに,本書で語られる負の部分,ドイツの義務教育のねじれのようなものが一層際立ってみえた.ランク分けされたギムナジウムや挽回のチャンスが限られた進学システム,マイスターに求められる質の変化など,一見して不合理だとわかっていながらも文化的な背景で縛られて身動きが取れなくなっているように感じる.こういった制度を是正する動きを既得権益を持ったエリートが妨害するといった,古くからある階級社会が見え隠れするところも興味深い.そして,そこから日本の教育に目を向けた時にどう感じるかも考えなくてはいけない.当然ながら日本の教育はドイツとは違うし,それらが成立する背景も違う.例えば,ドイツの教師は徹底的にビジネスライクなのに対して,日本の教師はまったく真逆で,人によっては人生の師ともなるほどに親密な関係を築く.そういう前提があるときに,日本の教育のいいところはどこか,一方でドイツの教育のいいところはどこか,教育を良くしていくにはどこを真似れば良いのかなど,考えなくてはいけないことは山ほどある.結局どっちが良いという問題ではないだけに,なかなか難しいところではある.