宮内悠介のデビュー作.比較的短い作品が6つ収録されており,それぞれに囲碁や将棋,チェッカー,麻雀,古代チェスといったテーブルゲームが題材となっている.

最初は人に勧められて読んだのだが,タイトルにもなっている作品「盤上の夜」を読んだ途端に,著者の非凡なる才能に感化されてしまった.文庫50ページにも満たない短編ながら,そこに存在する圧倒的なリアリティと少しの非現実なディテールに,SF作家としてのたぐいまれなる才気を感じた.

内容としては,確かに最近の流れを汲んで構成されていることに違いない.将棋の電王戦の盛り上がりを背景に,人間とコンピュータの関係性について,その未来のことを真剣に考える人は多い.そういう時に,人間の本質的な部分について,その仕組みや機構を超えて,可能性を見出そうとすることはある意味自然なことだと考えられる.古典的な条件付けや記憶からのパターン認識とともに,勘や共感覚や神秘的な現象,不可思議や超常現象にも近いものが取り上げられるのは,読者の興味に沿っているといえる.

そういう環境において,これほどまでに知的な好奇心を刺激される作品が出てくるのはSF作品の醍醐味だと言える.本書の短編が提示するテーマは,想定しうる科学の延長線を大きく逸脱しない未来において,現在私たちが持っている疑問や不安にある種の答えを出してくれるような,そんな感覚を持つ.それでいてストーリーに没入できる面白さも兼ね備えた,優れた作品であることに間違いない.