ジョン・メイナード=スミスの生物学啓蒙書.生命の定義から始まり,進化学,遺伝学,神経科学,生態学,発生学まで,生物学全般を広く浅く取り扱った本で,非常に基本的な概念を話の流れに沿って丁寧に解説している.原書のタイトルは”THE PROBLEMS OF BIOLOGY”とあり,まえがきでジョン・メイナード=スミスがハッキリと書いている通り,生物に対する問題提起というのは何を以ってして生物の理解と捉えるかといった全体論と還元論的な意味で非常に難しい部分だ.本書では中立的な立場を取っており,その両方から攻めることで最終的に中央にある真の理解に辿り着けるという理念のもとで,本の中で何を話して何を話さないかということが慎重に述べられている.統一的に生物を扱うことの難しさは非常によく分かるし,ましてや一般書として生物の基礎の基礎から解説しようというものだから,まえがきで各方面に異常なほど配慮しているのは仕方がないのだろう.

内容としては簡潔に纏められている印象はあるが,じゃあ今敢えてジョン・メイナード=スミスのこの本書を読む意味があるかと考えると,正直なところ考えこんでしまう.生物学を俯瞰する意味ではどの点を取っても現在ならもっと良い本が出ているだろうし,ジョン・メイナード=スミスの哲学はもっと研究よりの本を読まなければ垣間見ることが出来ないだろう.本書が出版されて20年経った今となっては,宙に浮いた感じの対象の定まらない本だと言える.とは言っても,それこそ上に書いたような問題と同じように,各論ばかりに目が行き過ぎていて総論として纏めることの重要性や意義などを過小評価しているのかもしれず,読んでいて非常に判断に困る感じがした.