日本人人質事件で急激に関心が高まっているイスラーム国(ISIS/ISIL)についての解説本.2015年1月に発刊されたばかりで,直近で言うと北海道大学学生のイスラーム国への渡航計画あたりまでの話が盛り込まれている.と言っても基本的にはイスラーム国についての網羅的な解説本であり,中東情勢を含めた成り立ちの歴史やイスラーム国のメディア戦略などが詳細に解説されている.著者がブログで書いている通り(link),新書ながらもクオリティは高く,非常に濃密な内容となっている.とにかくイスラーム国関連の日本語で読める書籍としては,第一級の情報源といえる.

歴史や地政学が苦手な自分としては,イスラーム国に対する興味で大きいのはやはりメディア戦略の手法だろう.情報発信/情報操作の重要性は,高木徹氏の「戦争広告代理店」を思い出す.同著者の「国際メディア情報戦」ではアル・カーイダについても少し述べられていたが,イスラーム国の戦略は遥かに現代的でかつ緻密に練られている.イスラーム国としてのカリフ制復活の宣言に始まり,欧米人を人質に取った身代金要求の映像や外国人戦闘員の勧誘としての広報誌の作成,奴隷制復活における正当化など,事情を知らない自分が見ても高度に計画され趣向を凝らした内容になっていると感じる.著者はブログで日本人人質事件においても詳細に分析しており(link),その背景知識としても本書に書かれている内容はとても役立つ.

当面の興味としては,イスラーム国の今後が最も気になるところだろう.本書においてもイスラーム国自体の宗教的地政的な側面からの分析や,オバマ政権の立ち位置とともに,奴隷制の正当化に絡んだ宗教改革の可能性についても論じられているのが興味深い(これは山形浩生氏との対談でも述べられている:ISISについて:池内恵と対談).こういった部分も含め,本書で得られた知識を元にイスラーム国について今後も注目していきたい.