「進化学辞典」第28章の「進化の歴史」がなかなか面白いので,読める環境にある人は読んでみると良いと思う.さすがに個人でこの辞典を買うのはキツいと思うが,研究室や図書館にあれば暇な時にペラペラめくって眺めてみると意外と楽しい.それほどページ数も無いので30分もあれば十分読み通すことができる.
この進化学辞典の「進化学の歴史」の章に纏められているのは,ダーウィンの種の起源に端を発した進化論に関する科学史である.今や生物学における基本原理と見なされながらも未だにラマルキズムや宗教との対立で常に議論が繰り返される進化論だが,19世紀半ばに唱えられてからそれが受け入れられていく過程も当然ながら一筋縄ではいかなかったことは想像に難くない.また,ネオ・ダーウィニズムや総合学生などへの発展の他に,社会進化論への派生の流れについても言及されており,思想としての社会への影響なども含めた歴史の流れとして,数学や物理学で語られる科学史とは一味違った内容となっている.
個人的には特に「日本における進化学の発展」が非常に興味深く面白かった.まずこの話題で一番気になるところが誰が最初に進化論を日本に持ち込んだかという疑問なのだが,これについては大森貝塚を発見したモースが評価され最有力候補らしい….あとは,カタツムリの研究者が同志社で生物学を教えて進化論の普及に務めたとか,ドイツの生物分類学者が医学校で講義した授業で森鴎外が聴いてたとか色々と逸話があり,当時の大学や研究に関してあれこれ想像を膨らませることができて面白い.