本書「なかのとおるの生命科学者の伝記を読む」では,過去に実在した学者の自伝を取り上げ,成し遂げられた研究の周辺知識とともに,その人生を分かりやすく簡潔にまとめたコラム集である.登場するのは古今東西様々な生命科学分野の学者や研究者で,18世紀の外科医から,病理学,生化学,細菌学,20世紀の遺伝学に至るまで,カバーしている範囲は非常に広い.ただし,伝記が出版されていることが前提条件なので,自分で書いた伝記にしろ人に書いてもらった伝記にしろ,本書で自然と取り上げられる学者は限定される.ともなると有名ドコロが勢揃いとなり,よく知っている偉大な先達や名前を一度は聞いたことのあるノーベル賞受賞者が並ぶのだが,彼ら彼女らの人生はどれも恐ろしいほど多彩で唯一無二の際立って特徴的な人生だったことがわかる.皆が思い浮かべるような学者像のような人物は誰としていない.それぞれが,時代とともに生き,時代とともに研究を重ね,そして一人の人間として生きてきたことがひしひしと伝わってくる.ひたすら実直なまでに真面目な人生を送りつづけた学者,新しい分野に活路を見出し自分の専門に拘ることのなかった学者,悪役として非難を受けながらも科学の発展のために信念を決して曲げなかった学者など,そんな学者たちの人生が伝記を通して明らかになる.
それぞれの学者の伝記はそれぞれ20ページほどの分量で,特徴を押さえつつ要点を絞って紹介されているので,非常に読みやすい.伝記というとどうしても一人の人間の人生ということで大作になってしまいページ数も異常に多くなりがちだが,本書ではそれがうまい具合に凝縮されていて概要をつかみやすい.本書を読んでもっと詳しく知りたいとなれば自伝を買って読めばいいだけなので,読書のガイドとしても有用な1冊だと思う.かという私はこの本を読んでCraig Venterの自伝を購入し少しずつ読んでいるのだが,これがかなりの分量で,まだVenterがNIHで上層部と火花を散らしているところまでしか読み進められていない.読み終わるのはいつになることやら….