「外国語で発想するための日本語レッスン - 発声練習」の書評で興味が湧いて読んだのだが,まさにスゴ本,久しぶりに目から鱗が落ちるような体験をした.何気ないことへの明確な理論的解釈を与えられ頭の論理回路を再構築するような感覚で,知的興奮とは違った別の高揚感を感じた.
本書は,最近良く言われるようになった「外国語を身につけるために日本語をしっかり勉強する」ための本なのだが,最大の特徴は外国で教えられている読書技術を日本語で実践して,その思考能力や技術力を学ぼうというものだ.日本語の技術を学ぶからといって,日本語の文法をおさらいしたり,闇雲に近代文学や有名な随筆を読むわけではない.むしろ,本書ではまず「絵画」を分析して解釈するところから始めて,そこから次第に複雑な文章へと進んでいく.その中で,個人が物事を観て考えるということはどういうことなのか,そして何をすべきなのかといった普遍的な論理的思考を身につけていこうといった内容となっている.なお,ここでいう「外国」とは主にドイツ・フランス・イタリアなどの北欧とアメリカを含めた欧米諸国のことを指す.
では,外国で教えられている読書技術とは何か?それは終始この本の中で述べられれる「テクストの分析と解釈・批判」である.これはCritical Readingと呼ばれるもので,何に対しても批判的に捉えるための技術といえる.これにはまず,論評文や小説にかぎらず,絵画,音楽など全ての創作物には.必ず意味があるという前提から始まる.詳しく言えば,創作物を構成する要素には必ず意味があり,創作物を象徴する役割が与えられているということだ.無意味に出てくるキャラクターや設定などは無く,すべて創作者が何らかの意図で配置していると仮定している.それを基礎として,私達は題材を読んだり観たり聴いたりすることで,それらの要素を分析し,意味や象徴性を解釈し,そして得られた情報をもとに批判的に検討して意見をまとめあげる.このような一連の流れを,ここでは「テクストの分析と解釈・批判」と呼んでいる.この工程には,自分の好き嫌いを語ったり主観的に鑑賞することは一切入ってこない.とにかく与えられた題材をもとに,ひたすら創作物の中にある根拠を重ねることによって主観性を排除し,そこから解釈をして最終的に意図を汲み取るようなスタイルとなっている.
実際にどうやって実践するかは本書を読んでいただくとして,その読み解き方は本当に驚くほど徹底したもので,普段どれだけ雰囲気でなんとなく解釈していたかを酷く思い知らされたと同時に,厳密に根拠から論理を組み立てていくことの難しさを再認識させられるばかりだった.ただ,こればかりは理解すれば一朝一夕に出来るようになるものでもないので,ひたすら訓練を繰り返すしかないだろう.
学校の国語の授業が嫌いだった人,美術館に行って絵画を観ても何をすればいいか分からず手持ち無沙汰になる人,論文を読んで書いてあることはわかったけどそこから新規性や問題点などが読み取れない人などに是非薦めたい1冊.自分が教える立場になったら参考にしたい1冊でもある.
(追記:2012/09/25)
本書とペアになっている「外国語を身につけるための日本語レッスン」も同様にお薦めできる1冊なので,ぜひ参考にしていただきたい.