「私は逸話が大好きだ」という言葉から始まる本書は,著者であるコリン・パウエルが国務長官などの数々の職歴のなかで経験してきた逸話を通して,リーダーシップや人生の教訓について語った著作である.タイトルからは自己啓発系のハウツー本のような印象を受けるが,実際に読んでみると,登場する逸話はどれも彼の豊かな人間性を表すようなものばかりで,まるで自伝の一部を読んでるかのような感覚に陥る.文章の端々に見られる責任感の強さや謙虚さ,そしていかに細かなことも見逃さず上司や部下に注意を払うかといった繊細さと思慮深さは,まさに指導者の鑑といって過言ではないだろう.
登場する逸話は,陸軍の軍人であったり国務長官などの役人としての体験が多い.軍部や政府に関する話は普通の人からはかなり縁遠い存在でありながらも,その中で語られる会話や出来事は,そういった特殊な環境であることを忘れさせるほどに人間味あふれている.また,コリン・パウエル自身のリーダーとしての指導経験も数多く紹介され,自分がどのように考えどのように組織を動かすのかといったテクニックも興味深い.特に,彼が新しいスタッフの元で働くときに配るという「べからず集」は,部下に何を期待して成果を挙げるべくチームを動かすかといったエッセンスが含まれている.そこで色々と列挙されるやってはいけない事というのは,ほとんどがコミュニケーションに関することだ.口頭での会話から公式文書まで,いかに効率よく個人が能力を発揮するかについて考えられている.とにかく彼自身,組織が円滑に回ることは車を修理して動かすことと似ていて非常に喜びを覚えるとも書いていることからも,彼の性格を考慮しても,組織のまとめ方に並々ならぬ努力を割いていたことがわかる.