2013年2月号の「クーリエ・ジャポン」でジェフ・ベゾスの記事の翻訳が載っていたのだが,その冒頭で面白い情報があった.これはおそらく著作「ワンクリック」には書かれていなかった情報だ.それはジェフ・ベゾスが重役会議の始めに必ず行う習慣で,発表する担当者に6ページもの書類を書かせて,それを30分ほどかけて出席者全員が熟読・黙読するというのだ.この会議システムの裏側には,ジェフ・ベゾスが簡潔で綺麗な文章を書かせるということを重視していることが伺える.

この記事を読んで,僕は思わず昔所属していたラボのことを思い出した.というのも,ジェフ・ベゾスの会議のしきたりと同じようなことが,そのラボでも行われていたからだ.そのラボでは月に1回ほど回ってくる論文紹介で発表する際に,必ず論文の要約をA4用紙1枚にまとめて全員に配布することを義務付けられていた.要約といっても,論文のアブストラクトをただコピーしただけでは明らかに分量が足りず,説明にも隙ができる.逆に,論文のストーリーを丁寧になぞろうとすると,背景から実験方法,結果,考察までを含めるには,文章を相当切り詰めなければならなくなる.これをA4用紙1枚に収めるには,論文の要点だけを取り出して簡潔な文章として洗練させなければならない.そして,このようにして書き上げた要約は,論文紹介のプレゼンテーションの最後に全員が熟読し,全体構成から文脈の整合性,専門用語の使い方,句読点の場所に至るまで,文章に関するありとあらゆる箇所をチェックされ訂正される.いわゆる駄目出し,袋叩き,フルボッコにされるというもので,ラボに入りたての学生はこの洗礼によって自分の日本語の文章力の無さに打ちひしがれ,熟練の学生でも完璧な要約を提出するにはかなりの時間を費やして文章を練る必要がある.しまいには,ある程度のレベルに達するまで書き直しを要求され,原稿にひたすら赤を入れる作業が続く.

在籍していた当時は,いつまで経っても成長しない自分の文章力と毎回真っ赤になる原稿とで気が滅入ることが多かったのだが,今から考えると良かったと思える部分もある.当然ながら文章に関しては人一倍気にするようになったし,推敲することの重要性や文章の完成度に自覚的になった.そのラボでの成果が今のBlogで発揮されているかというと疑問が残るところではあるが,今のところはまあ気にせず技術を磨き続けるしかない.

参考