文法が正しければそれでいい,意味が通じればそれでいい,謝罪や感謝の言葉さえ言っておけばそれでいい…,といったある種の割り切りのようなものは,完璧な英語を目指すあまりに何も話せないような日本人にとっては効果のある心がけなのかもしれないが,一方で適切でない言葉遣いや非礼な態度はコミュニケーションにおける誤解を招きかねない.とは言うものの,微妙なニュアンスや行間を読むようなことはネイティブスピーカーじゃないとできないと思うかもれない.まだ基礎もできていないのに高度なことは到底無理だと,始めから匙を投げがちだ.しかし,大人になった私たちには論理があり経験があり文化がある.礼儀や習慣の必要性を論理的に理解し,それが必要になる場を経験から感じ取り,文化的な振る舞いを心がけることができる.これは決してネイティブやバイリンガルが自然とできるようになることではない.大人になった今だからこそ,理論的に系統立てて学べる技術である.しかも,必要になるのはとても簡単な単語と文法だけとなれば,あとは身に付けるかどうかの違いだけだ.
本書は主に日本のビジネスマンや学生に向けて書かれた英語のコミュニケーション術の解説書である.英語を必要とする日常会話やメール,プレゼンテーションなどの場において,どういう決まり事があってどういう間違いをしがちかといった気をつけるべきポイントが多数収録されている.特に,どんな場合でも”I’m sorry”と言わないと気がすまなかったり,質問に”Yes, I do / No, I don’t”といった決まり文句で返事しがちであったり,質問の意味がわからずに適当に返事してしまったりと,誰しも一度は体験したことのあるようなケースが多数登場する.当然ながら,それらの巧い返し方にも決まったフレーズがあり,言葉の使い方をちょっと変えるだけでぐっとネイティブに近づくことができる.また,日米のメールの構成の違いや発音を改善する方法など,知っていて当然/知っておくべき知識も豊富に含まれている.個人的には,
- canとcan’tの発音方法の違い
- 相手の質問に不躾にNoと言わない方法
- マジックナンバー3
あたりが非常に参考になった.どのトピックも難しいことは何一つ要求されない.ただそのことを知っていて体に染み付いているかどうかの問題なのだ.この程度ならもしかしたら感覚的に理解して実践している人もいるかもしれない.しかし,今は頭でっかちになって理屈から理解しようとしているのだから,気後れすることなく1つずつ覚えていけばいい.そういった意味で本書は,英語の作法や技術をじっくり学んでいくための足がかりになる1冊である.
それにしても英語は本当に難しい.なんでこんなに英語が喋れない/聞き取れない/書けない/読めないのかと,悔しくてたまらない時がある.もしバイリンガルだったならどれほど楽だったかと誰しも一度は思うはずだ.そういう時には決まってスヌーピーのこの言葉を思い出すようにしている.
YOU PLAY WITH THE CARDS YOU’RE DEALT…WHATEVER THAT MEANS.
いくら人を羨んだってしょうがない,だったらとことん理詰めで攻めてやろうじゃないかと,すこしばかり自分を奮いたたせることができる.そして,本書のような英語の技術書を読むと,少しばかり前に進んでいる実感が得られる.