確率統計の非常に分かりやすい入門書.タイトルには「プログラミングのための」とあるが,むしろ一般的な統計学の入門者や学生向けだろう.あと,これは自分の場合なのだが,機械学習を勉強したいけど確率とかよくわからなくて出鼻をくじかれて無理って人,具体的にはPRML2章で読むのを断念した人にも,とても参考になる本だと思う.中身はとにかく具体例や図表が豊富で,数式や定義などを視覚的に理解できるよう非常に創意工夫が凝らされている.細かい部分への配慮も抜かりなく,ざっくばらんな質問や重箱の隅をつつくような疑問にも著者が全力で自問自答(?)するコラムがあったりと,本筋以外のバックアップも充実している.ちなみに,本書は「プログラミングのための線形代数」の姉妹本で,そちらの方も非常に視覚的に分かりやすい説明がされているのでお薦めできる.そっちの自問自答っぷりはこの本の比ではない.

本書が視覚的で分かりやすいのは大きな特徴なのだが,個人的に嬉しかったのは5章の「共分散行列と多次元正規分布と楕円」の項だった.というのも,統計学や確率統計の入門書で2次元以上の正規分布に関して詳しく書いてある参考書が殆ど無いからだ.複数の確率変数や分布,独立性にまつわる話などはヤコビアンなどと絡めて書かれていることが多いが,正規分布に関して丁寧に書いてあるものは少ない気がする.試しに,手元にある参考書を幾つか開いてみたが,記述があったのは以下の2冊で,

両者ともに数ページの説明と2変量正規分布の式や簡単な導出程度にとどまり,共分散行列については触れられていなかった.他にも自然科学系の入門書にもあたったが,検定や最小二乗法,最尤法,分散分析方面に重きが置かれているようで,多次元にまで拡張した分布の説明は無かった.

とまあそんな感じで,多次元正規分布周りの話は入門書にはあまり書かれない内容なので,この章だけでも拾い読みする価値が十分にある本だと思う.勿論その他の章も分かりやすく読み応え有りなので気になる人は是非通読してみるといいと思う.

参考

オーム社の公式ページで本書の補足pdfがダウンロード出来る.



感想

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                            やつを追う前に言っておくッ!
                    おれは今やつのバーストをほんのちょっぴりだが体験した
                  い…いや…体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……
         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|       『おれはバラバシの新刊を読んでいたと思ったら
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ        いつのまにか16世紀ハンガリーの十字軍の歴史を追っていた』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        おれも何をされたのかわからなかった…
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \  べき乗則だ自己組織化だとか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...   イ  もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

今回は纏めきれなかったのでネタでお茶を濁させて下さい….

以下Twitterで書いた感想(適当)



日経サイエンス別冊で進化特集で,過去に日経サイエンスに掲載された記事を中心に纏められている.驚くべきはそのカバーされている分野の広さで,進化学の教養的な話題から,分子生物学と進化学の関係,深海生物から人類の起源まで,分野を横断して専門的なコラムが読めるのは非常に楽しい.一般紙だけあって綺麗な絵や写真が豊富で眺めているだけで楽しいし,記事にはそれぞれ要約(まとめ)や補足コラム,参考資料などが付いていて丁寧な作りになっている.

日経サイエンスは殆ど読んだことがなかったのだが,こんなにちゃんとしてて読みやすいとは思わなかった.本誌もちょくちょく覗いてみようかと思う.



「進化学辞典」第28章の「進化の歴史」がなかなか面白いので,読める環境にある人は読んでみると良いと思う.さすがに個人でこの辞典を買うのはキツいと思うが,研究室や図書館にあれば暇な時にペラペラめくって眺めてみると意外と楽しい.それほどページ数も無いので30分もあれば十分読み通すことができる.

この進化学辞典の「進化学の歴史」の章に纏められているのは,ダーウィンの種の起源に端を発した進化論に関する科学史である.今や生物学における基本原理と見なされながらも未だにラマルキズムや宗教との対立で常に議論が繰り返される進化論だが,19世紀半ばに唱えられてからそれが受け入れられていく過程も当然ながら一筋縄ではいかなかったことは想像に難くない.また,ネオ・ダーウィニズムや総合学生などへの発展の他に,社会進化論への派生の流れについても言及されており,思想としての社会への影響なども含めた歴史の流れとして,数学や物理学で語られる科学史とは一味違った内容となっている.

個人的には特に「日本における進化学の発展」が非常に興味深く面白かった.まずこの話題で一番気になるところが誰が最初に進化論を日本に持ち込んだかという疑問なのだが,これについては大森貝塚を発見したモースが評価され最有力候補らしい….あとは,カタツムリの研究者が同志社で生物学を教えて進化論の普及に務めたとか,ドイツの生物分類学者が医学校で講義した授業で森鴎外が聴いてたとか色々と逸話があり,当時の大学や研究に関してあれこれ想像を膨らませることができて面白い.



「結局のところ人工知能は簡単には作れなかった.実現するのはまだまだ先だ」というのが殆どの科学者の大まかな見解だろう.20世紀半ばに計算機科学が勃興して以来,情報処理の応用分野は数知れず,チェスで人間を負かしたりはしたけれども,結局人間の知能を模倣するのは想像以上に難しかったということだ.脳の機能を真似たニューラルネットワークは機械学習の分野を拓いてきたし実際にアルゴリズムは機能して問題解決に役立ってきたけれども,それは明らかに人間の脳の働きとは全く違ったものだった.

この本で作者のジェフ・ホーキンスは,もう一度人間の脳に真剣に向き合い,構造やニューロンの反応,情報を認識するシステムや脳科学の実験結果を元に,脳と知能の本質的な理解を深めようとしている.そこで彼は,感覚器官から伝えられる信号を大脳新皮質で認識してパターンを解析することが,脳の高度な情報処理において重要であると結論づけている.この新皮質における6層からなるニューロン群は各感覚器官から神経を伝って送られた電気信号を受け取るのだが,場所によって視覚や嗅覚といった機能を分けているわけではない.全ての情報は全て新皮質全体で一つのパターンとして認識され,入力の時空間的な変化によって処理される.空間的な変化は新皮質の2次元的な広がりに,時間的な変化は流れこむタイミングと対応している.ここで重要なのは,全ての情報は新皮質の空間的な変化としてパターン化されるため,眼や耳,鼻がそれぞれ視覚や聴覚,嗅覚と対応しなくても良いということだ.当然それぞれの感覚器官はそれぞれの感覚に特化されているが,それらでなければ認識できないわけではない.例えば,舌に電気信号を送ることで,視覚の代用をすることが出来ることがわかっている.各感覚器官が独自に処理をして最後に脳が統合するという流れではなく,感覚器官の生の情報を脳が最初から統合して処理しパターンとして認識しているのだ.

当然ながら,これだけで脳の知能をすべて説明できるわけでもないし,人工知能を作ることができるわけでもない.ただ,数学的な応用や使えるアルゴリズムでその場凌ぎ的な満足を得るのではなく,脳科学の知見を取り入れて人工知能についてもっと広い視点から包括的に考えていこうという著者の強い意志が印象深く,脳科学的な解釈や主張も非常に面白い本だった.ただ,この本の提言を改めて読んで,昨今の機械学習の盛り上がりに同調する様に現在の技術の手応えを感じるか,IBMのワトソンがクイズの答えを導くアルゴリズムを見て脳科学との乖離と見るか,本文で書かれた問題提起を踏まえて現状をどう見るべきなのかは少々判断が難しいところだろう.