ハツカネズミのtハプロタイプに続き,DrosophilaSD分離歪曲因子と菌類の胞子キラー因子について見ていく.これらはどちらもヘテロ接合体オスが野生型を殺すことによりドライヴ性を示す.

  • その因子は,どのようにして利己的な優位性を獲得したのだろうか?
    • +/SDヘテロ接合体オスにおける野生型の染色体を持つ精子の成長阻害
  • いかにして,その因子は出現したのだろう?
    • Xba1反復配列が増幅したのちSdが生じた
  • どれくらい昔に出現したのだろう?
    • 平均合着年代よりずっと最近
  • 大型生物に対する影響はどのようなものだろうか?
    • あまりない(抵抗性対立遺伝子の維持コストもそれほど顕著ではなく,SDホモ接合型も生きられないわけではない)
  • どのくらいの速度で,その因子は分布を拡大すると期待されるだろうか?
    • ???
  • 種内における頻度はどれくらいか?
    • 1~5%
  • 頻度を決定づけているものは何か?
    • 抵抗性対立遺伝子といかに連鎖して分布を広げられるか(初期)
  • いくつかの種にその因子が見いだされるのに,他の種には見いだされないのはなぜか?
    • ??? (なぜかは置いておいて,SDとtはキラー因子と抵抗性対立遺伝子の働き方が逆(タンパク質コードと欠失)の作用を示す.)
  • ゲノムの他の因子は,利己的な因子に対抗してどのような適応を強いられてきたか?
    • Xba1反復配列のコピー数を少なくした
  • ホストの系統に対しておよぼしてきた効果以外に,どのような影響をもたらすだろうか?
    • ???


エピジェネティクスに関する一般向け書籍.ゲノミクスの次の潮流として期待されているエピジェネティクスに関して,豊富な具体例を用いて非常にわかりやすく書かれている.まず冒頭で母親の栄養不足が子供の肥満に影響しているということが述べられ,そこから遺伝子に依らない遺伝的影響であるエピジェネティクスの話に発展する.その後は,ヒトの遺伝疾患やモルモットの毛色の違いといった表現型などの具体例から,エピジェネティックな要因が遺伝子のどの部分にどのような形で影響してくるのかが述べられ,話はゲノムインプリンティングや幹細胞などのホットな話題にまで広がる.どれもトップダウンな解説ですんなり理解できるように組まれており,個々の話題には深入りしないものの,それぞれの話題のつながりは明確できちんと順序立てて説明されている. 個人的にはエピジェネティクス自身の歴史に関して「前成説」と「後成説」の対立を絡めて纏められていた部分で,以下の文章が非常に印象に残った.

細胞を構成する他の要素と同じく,遺伝子もハードウェアの一つであり,指示を出しつつ指示を受け,監督しながら監督され,原因であると同時に結果でもあるのだ. (P.160)

遺伝子は意志をもって細胞を支配しているわけではなく,あくまで細胞の一部として機能するものだ,という著者の主張が表れていて非常に良かった.

ちなみに,ハードカバーで250ページくらいあるがそのうち50ページくらいは訳注と参考文献なので,見た目ほど分量は無く気軽に読める.



fastaやfastqは馴染みがあっても,fastbというフォーマットは知らない人が多いと思う.これははfastaファイルをバイナリ形式に変換したフォーマットのことで,SAMとBAMの関係と同じようなものである.

ALLPATHS-LGにおいて,アセンブリの評価のためにリファレンスゲノムを入力として与える際には,REFERENCE_DIRにgenome.fastaとgenome.fastbという2つのファイルが必要になる.genome.fastaに関しては,データベースなり自前で用意した配列を使えばいいのだが,genome.fastbに関しては手作業で変換をしなければならない.ということで,今回はfastaとfastbの変換の方法について,メモ程度ではあるが書いてみることにする.



(追記, 2013/07/18, Velvetに依らないk-mer推定の記事:ゲノムアセンブリにおいて最適なk-merを推定するKmerGenieを試してみた - Wolfeyes Bioinformatics beta)

VelvetKというスクリプトが公開されたらしい.これはVelvetのアセンブルの際にユーザが指定する必要のあるk-merのkの値を,ゲノムサイズとショートリードのサイズから自動推定するスクリプトのようだ.普通ならばkの値を細かく変えてVelvetを大量に走らせてアセンブル結果を評価するというのが定石だと思うが,もしkの値が自動推定できるなら,そのkの値付近だけを重点的に調べるといったことが出来るので大幅に労力を削減できる.私自身あまりVelvet/Oasesを使った経験が無いのだが,取り敢えず一通り使ってみた.



2章 常染色体キラー

2章の最初に紹介される利己的な遺伝因子は,ハツカネズミのtハプロタイプである.利己的な遺伝因子の中では発見が早く(1927年),研究から得られた知見も多い.

  • その因子は,どのようにして利己的な優位性を獲得したのだろうか?
    • ヘテロ接合体オスにおいて,野生型の精子を無力化させる
  • いかにして,その因子は出現したのだろう?
    • セントロメア近辺の逆位のすぐそばに生じた分離歪曲対立遺伝子(キラー因子)
    • 逆位による組み換えの妨害により,分離歪曲対立遺伝子と応答-不感性対立遺伝子の連鎖を強め安定化させる
  • どれくらい昔に出現したのだろう?
    • 約0.3Myr前
  • 大型生物に対する影響はどのようなものだろうか?
    • +/tハツカネズミの成獣期におけるメスの体の不均整やオスの攻撃性の違い (これらは直接的に利己的な遺伝因子が関わっているわけではない)
  • どのくらいの速度で,その因子は分布を拡大すると期待されるだろうか?
    • ???
  • 種内における頻度はどれくらいか?
    • 5% (集団により異なる)
  • 頻度を決定づけているものは何か?
    • ホモ接合体およびヘテロ接合体の適応度
    • 集団サイズと相関
  • いくつかの種にその因子が見いだされるのに,他の種には見いだされないのはなぜか?
    • Mus musculus亜種の種分化後に種間交雑で広まったから
  • ゲノムの他の因子は,利己的な因子に対抗してどのような適応を強いられてきたか?
    • 抑制因子の出現などによるゲノム内コンフリクト
  • ホストの系統に対しておよぼしてきた効果以外に,どのような影響をもたらすだろうか?
    • ???

1章で述べられた利己的因子の基礎に関する問題に,tハプロタイプのケースで解答を作成してみた.個別のケースでは答えにくい問題もあるが,本文の纏めとして特徴が俯瞰できるように,ある程度問題を曲解したり無理やり当てはめた部分もある.