「ググる」に代表される検索システムがが電子葉という脳機能の一部として実用化され,知ること自体がネットワーク上の情報にアクセスすることと同義となった世界の物語.身の回りでは情報材とよばれる素子によって通信が媒介され情報が発信し続けられ,人間はそれに自由にアクセスできる.そんな情報に溢れた未来で,知りたいと欲する知識欲の根源とはなにか,予測できるものとできないもの,そして全能性について,本書「Know」はそういった問題に焦点を当てた小説だ.

扱われるトピック的には現在の科学技術の延長線上に収まっていて,突拍子もないアイデアが出てきたり宇宙人がみたいな話も無い.その分ある程度予期できるというか,出来なくはないだろうという感じで未だ実現しない技術が常識的に使われる未来を脳内に描きやすい.というより読んでいてあれこれ考えを巡らすのが楽しい.

一方で,本書は京都が舞台になっており,表紙絵からも分かる通りかなり宗教色や日本の歴史観を入れ込んだ作品になっている.そういうあたりは手塚治虫の火の鳥を想起させるけれども,本書が向き合う宗教や歴史観はそれとは少し違う気がする.あたかも宗教画や教義の中には真実が隠されていて,現代人はそれに気付いてないんだ的な扱いをしていて,僕はあまり好きじゃない.ある意味西洋的であるというか,宗教や歴史的な古文書ってそんなに始まりをつかさどるようなものだったっけ?と疑問が湧いてしまって,その点は馴染めなかった.

あと最後に蛇足で内容とは全く関係無いが,計算機科学的にはCould not getではなくてPermission Deniedなのでは…と思った.



六本木ヒルズ49Fアカデミーヒルズにある会員制図書館「六本木ライブラリー」のアドバイザーの著作で,そこで扱っているようなビジネスパーソン向けの選書を紹介した本書.選書は著者が重要だと思う幾つかのジャンルに分けられ,ロジカルシンキングやビジネススキル,コミュニケーションスキル,はたまた「自分のお金」などといったように,あくまで図書館に陳列されているような大枠ではなくターゲットを絞ってまとめられている.また,本を選ぶ基準としてもジャンルの「基本書」となるような代表的で費用対効果の高い本を選んでいるとのこと.

本を紹介する本なんて言ってしまえば読み手が次の本を見つけらさえすればそれでいいわけで,そこにアレコレ言うのも難なのだけれども,気になった点を幾つか.

まず全体の雰囲気としては,ちょっと前によく聞いたようなトピックが大半を占める.言ってしまえば勝間和代以降の人々が提唱するようなスキルや生き方で,その界隈を追っていた人間からすると目新しさをあまり感じないだろう.実際に本書最初のロジカルシンキングで紹介されているのはまさに勝間和代が最初期に紹介していた本なので,何とも言えない懐かしさを感じさせる.

選書は自分が口出しする部分ではないのでいいとして,なぜその本を選んだのかといった書評の部分が本書は薄い.こういう技術や知識が必要だからこの本はオススメですといういわゆるキュレーションを軸にしているにも関わらず,それを読むべき理由付けとしての書評が機能していないというか,こういうことが書いてあるから読むべきくらいにしかなってない.紹介するアイデア自体が,誰も聞いたことのないような奇抜で斬新で面白そうなものであればそれで良いが,本書はそうじゃない.例えばロジカルシンキングが大事というときに,ロジカルシンキングの本を持ってきてこれ名著だからオススメですと言われるのは,それじゃあ本屋のポップ(紹介文)と変わらないんじゃない?と思ってしまう.その本がどう重要なのか,なぜ基本書として選ばれる名著なのか,類書と比べてどういう立ち位置の本なのかなど,色々な切り口がオススメの説得材料としてあるといいのだけれども…….中には「7つの習慣の続編だからって舐めてないで第3の案も面白いから読めよ」といった良さげな紹介も含まれているものの,全体的に本の羅列にしか感じられないのが残念だ.



最近(といっても去年末から今に至るまで)行った4つの美術展.


スヌーピー展@森アーツセンターギャラリー

スヌーピー展 しあわせは、きみをもっと知ること。 | 六本木ヒルズ - Roppongi Hills

スヌーピーがベトナム戦争っぽい雰囲気のなか機関銃撃ちながら親に向けた手紙っぽい筆跡で考え事してる絵がとても印象的だったんだけど,ぐぐっても出てこない.

アンディ・ウォーホル展@森美術館

アンディ・ウォーホル展:永遠の15分 | 森美術館

20世紀の革命はやっぱりサンプリングなんだということを改めて実感した.

アンドレアス・グルスキー展@国立国際美術館(大阪)

ANDREAS GURSKY | アンドレアス・グルスキー展 | 東京展 : 2013.07.03-09.16 / 国立新美術館 | 大阪展 : 2014.02.01-05.11 / 国立国際美術館

映画をめぐる美術@東京国立近代美術館

展覧会情報映画をめぐる美術 ――マルセル・ブロータースから始める



STAP細胞に端を発する自然科学分野の論文捏造の背景にある,現在の生物学・医学研究が抱える根本的問題に焦点を当てた本書.STAP細胞の論文のどこに致命的欠陥があったかを出発点にして,論文捏造のメカニズムや方法,そして論文捏造が行われるに至る「研究者の日常」というものを知ることができる.

表面的な問題としての実験画像の加工や文章の剽窃などは,もとを辿ればアカデミアにおける論文至上主義的な評価制度に行き着く.研究者の研究の質を評価するのは非常に難しい.だからこそインパクトファクターが生まれ,引用回数が指標になり,そして研究者は「もっと多くの論文!もっと良い論文誌!」と躍起になる.それ自体が悪いとは言うことができないが,その裏にある不公平なシステムや非科学的な態度には大いに問題がある.研究者として成功するためのプレッシャー,信用で成り立つ論文誌のレビュー,論文に記載できるマテメソの文字数の制限,不十分な実験設備の管理,研究室で常態化する謎の風習などなど,本書を読むとその異常性がはっきりとわかる.それと同時に,さまざまな圧力に板挟みになる研究者の身動きのとれなさがひしひしと伝わってくる.

自然科学の研究者について何も知識がないと読み通して理解するのはつらいかもしれないけれども,大学で研究室に配属されたことのある学生くらいなら本書は非常によい勉強材料となると思われる.バイオ研究の中でもがいている人も,バイオ分野を知らない外野の人間にも,ぜひ読んで研究という行為について考えてみて欲しい.

あと最後に,本書を書いた人はぜひとも文責を負うという意味でも本書に名前を明記すべきだと思う.たとえそれがハンドルネームや偽名でも良いので,「暗黒通信団」という団体名義で書くのではなく,一個人がその経験から研究者の現状を憂い真摯に告発するという態度を示してほしかった.本書に書かれている内容がかなり具体例が入り混じって際どいのはわかるが,その部分を曖昧にしてしまうと本書が持つ意味的な切れ味も悪くなると思う.こういったことは暗黒通信団だからこそできる素晴らしい活動だと思うので,一貫した理念でこれからも活動してほしいと思う.陰ながら応援しています.



最初は「なんでアドテクはミリ秒レベルで競っているのか」ということを知りたくて本書を手に取ったのだけれども,その疑問が解消できたのはもちろんのこと,分野全体について広く浅くカバーされていてアドテク入門にに最適な1冊だった.今までは広告配信なんて結局ユーザ情報とコンテンツのマッチングだろう程度に思っていたところがあったものの,実際には広告配信の裏にはアドネットワークの市場が形成されていて,そこではオークションによって広告主と配信媒体とのせめぎ合いが行われていた.そうした両者の最適化の結果がミリ秒単位での駆け引きの後にユーザに広告を配信するという現在のスタイルを作り上げたのだと考えると,インターネットにおける広告というものの規模と,それを可能にしたフロントエンドやネットワークレベルでのエンジニアリングに驚かされる.

本書の前半の巻頭企画と特別企画では,実際にアドテクに触れるときの背景知識や運用方法について,特集1では実際のミリ秒のしのぎをけずる広告配信のコアについて,後半の特集2,3では実際の技術について解説される.RTBにはじまり,DSP,DMP,SSP,CGM,レムナント,インプレッションなどなど,アドテク初心者には聞きなれない専門用語のオンパレードだけれども,そのあたりはきちんと本書の中で解説されるので,分からないながらも読み進めていくと次第に理解することができる.雑誌1冊分の分量で気軽に読めて,実際のアドテクのネット記事を読むための基礎を身につけられたと思う.