まずは著者が書いたブログを紹介しておこう.ここを読めば本書のことはだいたいわかる.

さて,本書の最大の特徴は,現代数学の概念を中学・高校で習うような基本的な知識で理解しようとするところにある.ただし,ここではその思想を理解するための骨組みだけが示される.その構成要素こそ,本書のトピックとして登場するイデアル,有限体,ホモロジー群,位相空間,スキームといった概念である.過去の数学者がどういう発想をして,どうしてそこにたどり着いたのかということをここではトレースする.その試みは意外と基本的な代数の知識だけで何とかなってしまうということを,本書は示してくれる.

読んでみて分かるのだが,この本は最後のほうまで流れるように読めてしまう.それはあたかも原理から定理をどんどん作り上げていくような感覚だ.しかも内容も抜群に面白くて考えても見なかった発想がどんどんでてくるものだから,細かい証明などはある程度読み飛ばして先のトピックへと急いでしまう.余分な要素がなくて必要最小限の知識だけで組み立てているからだと思うのだけれども,これには自分でも驚いた.一方で,理解半分で進むものだから,ときどき定理などが分からなくなって前に戻ることもしばしばあった.もしもきちんと話を追っていきたいという人は,定理や具体例を実際にノートに書き写していくといいかもしれない.

最後に,折角なので著者の言葉を幾つか引用しておこう.数学が苦手な自分としても,こういう真髄を理解できるようになりたいものだ.

数学というのは、人類が二千年以上にもわたって構築してきた、この世界を認識するための技術だ。したがって、ホンモノの数学は、イメージ豊かで深遠で夢のある分野なのである。このことは、数学者が世界を見つめるその見方を知ると納得できると思う。数学者が生み出す数学は、新しい見方・奇抜な見方に満ちている。

http://d.hatena.ne.jp/hiroyukikojima/20140516/1400210650

数学を(いや、どんな学問でもそれを)理解する、という行為は、人生を総動員して行うべきものであり、そうしさえすれば、(それへの愛と欲求がある限り)理解は不可能なことでもそんなに難しいことでもない

http://d.hatena.ne.jp/hiroyukikojima/20140523/1400837261



京都に住んでいる知り合いと久しぶりに遊ぶことになって,貴船に行ってきた.どこに行くかとかを含めて昼夜の店まで手配してくれて,本当にありがたかった.

出町柳から叡山電鉄で30分ほど揺られて,そこから10分ほどバスに乗ると貴船に着く.山間の狭い川沿いに店が幾つも並んでいて,いたるところに川床(かわどこ)がある.川床とは川の上を覆うかたちで大きな台を敷いてその上で飲み食いする場所のことで,自然の景観を利用した何とも風流な設備である.しかも台は川の平たいところにしかおけないので,川床の間には滝が挟まっていたりしていて最高に眺めが良い.その日は京都市内ならすぐに汗ばむくらいの気温でも,川床にいるとちょっとひんやりする程度で,本当に気持ちがよかった.今回は「ひろ文」で流しそうめんを食べたのだけれど,目の前の滝に癒やされつつも手前に勢い良く流れてくるそうめんを掴んで食べるのは,まさにエンターテイメント性があった.川床はそこにいるだけで快適で楽しいので,今度は普通にだらだら料理を食べるのもいいかもしれない.何やら温泉もできるようなので,湯につかったあとの涼みは最高に気持ちが良いだろうなと考えつつ下山.また紅葉のときにでも訪れたい場所だ.

その後は京都市内でスイーツを食べたり魚を食べたりした.写真は撮ってないけど,生湯葉チーズ巻なるものが非常に美味しかった.



宮内悠介のデビュー作.比較的短い作品が6つ収録されており,それぞれに囲碁や将棋,チェッカー,麻雀,古代チェスといったテーブルゲームが題材となっている.

最初は人に勧められて読んだのだが,タイトルにもなっている作品「盤上の夜」を読んだ途端に,著者の非凡なる才能に感化されてしまった.文庫50ページにも満たない短編ながら,そこに存在する圧倒的なリアリティと少しの非現実なディテールに,SF作家としてのたぐいまれなる才気を感じた.

内容としては,確かに最近の流れを汲んで構成されていることに違いない.将棋の電王戦の盛り上がりを背景に,人間とコンピュータの関係性について,その未来のことを真剣に考える人は多い.そういう時に,人間の本質的な部分について,その仕組みや機構を超えて,可能性を見出そうとすることはある意味自然なことだと考えられる.古典的な条件付けや記憶からのパターン認識とともに,勘や共感覚や神秘的な現象,不可思議や超常現象にも近いものが取り上げられるのは,読者の興味に沿っているといえる.

そういう環境において,これほどまでに知的な好奇心を刺激される作品が出てくるのはSF作品の醍醐味だと言える.本書の短編が提示するテーマは,想定しうる科学の延長線を大きく逸脱しない未来において,現在私たちが持っている疑問や不安にある種の答えを出してくれるような,そんな感覚を持つ.それでいてストーリーに没入できる面白さも兼ね備えた,優れた作品であることに間違いない.



なんでもそうなんだけど,WEB+DB PRESSの表紙に書いてある「新人さん大歓迎」みたいに,基礎をもう一度おさらい!とかまだ間に合う!とかいう売り文句にめっぽう弱い.自分自身基礎をほっぽり出してトップダウン式にアレコレやってきたからというのもあるし,何か抜けているところは無いかと心配性になったりというのもあるし,何にせよ再入門みたいなことを繰り返してしまう.実際に中身を見れば「ああこの程度か」とか「所々わからないなー」のように当たりはつくのだけれども,際限なく空いている穴を埋めきるのに必死になってしまう.

ということでWeb+DB PRESSの「Web技術入門」を読んでもうちょっと詳しく見ときたいなと思って,本棚から「Webを支える技術」を引っ張り出してきて一通り読み返した.だいたいのことは覚えていたけれども,それでも抜け落ちていた部分であったり,数年前に読んだ時にはピンと来なかった部分を見つけられたと思う.特にHTTPやRESTのシンプルな構造ゆえのpros and consみたいな点は最近ようやく分かるようになってきた.アプリケーション状態を持たないステートレスな接続の果たす役割や,それを実現する自己記述的なメッセージ,あとはHTTPメソッドそれぞれの冪等性や安全の有無も改めて考えると面白い.

それにしても今月のWeb+DB PRESSは本当に新人向けにまとまってて良かった.Mac開発環境の解説とかは本当に必要最低限の技術を広く浅くという感じなのだけれども,これからバリバリプログラミングしたいですって人とかに勧めるのに最適な1冊じゃないだろうか.他にもエンジニアの学び方とかCourseraのコラムも良さ気.あとはzsh入門があればバッチリだと思ったのだが,まあそこは次のステップにでも.



爽快メカアクションかと思いきや,実は警察の派閥争いやら内部腐敗やらのシステムに身悶えする(萌える)小説だった.そもそも人が運用する外部装甲の設定や機龍兵と呼ばれる特捜部が隠し持つ圧倒的な武力描写はちょっとしたスパイスであり,むしろ組織内の人間模様が中心にあった.警察という国家権力として治安維持という職務に準ずる中で,その理想としての公正さと現実の不条理さの狭間で身動きが取れなくなり,組織として硬直する様は非常にリアリティがある.そこに物語を際立たせる要素として,機龍兵に搭乗する特捜部3人の傭兵の過去が織り込まれていくのだが,文字通り三者三様な職務への姿勢と,その過去とのつながりが本書の醍醐味の一つとなっている.

本書は様々な伏線や登場人物の語られない一面を残しつつ終わっている.機龍警察シリーズはこの後も暗黒市場,自爆条項,未亡旅団と続いていくので,続編を読むのが楽しみな作品だ.